2004年7月25日号
 

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農林抄 (論説/食料自給戦略の研究への提言)
 
   「食育と自立的農業者育成を」
       藤澤流通・マーケティング研究所代表 藤澤研二
 
 日本農業は、これまで農地、担い手、グローバル化や市場原理の導入など肝心な部分では戦後体制を温存し、構造改革を先送りしてきた。しかし、ここへ来て、担い手不足、耕作放棄地の急増、WTO、FTAなどの通商交渉の新たな段階の進展、財政逼迫、消費構造の激変などから、もはや構造改革は待ったなしの状況に追い込まれている。そのような認識の下、見直し時期を迎えた食料・農業・農村基本計画の策定作業においては従来にない踏み込んだ議論が行われている。同基本計画の策定には、日本農業の10年、20年後を見据えた本当の意味の構造改革に結びつくビジョンづくりを期待したい。さて、今回のテーマ「食料自給戦略」は、まさに日本農業の将来像、構造改革の進展度合いが問われるテーマであり、国家安全保障にも係わる重要な政策課題であることは論を待たない。とは言うものの、わが国の食料自給率は前基本計画で意欲的な目標が設定されたにもかかわらず、その後も数字は一向に改善せず、今後を展望してもいっそうの低下が懸念されこそすれ、引き上げに結びつく要素は今のところ見当たらない。つまり、構造改革を先送りしたままでは自給率の向上は実現しないということだ。そもそも、自給率は消費者、実需者の消費、購買活動の結果であり、ユーザーに選択される農産物の品質、価格を実現するなど、求められる商品を生産、供給しない限り、政策的な誘導などはできるはずもない。・・・


焦 点 「一定月齢以下のBSE検出に限界」
 
 
 食品安全委員会のプリオン専門調査会が7月16日、BSE対策検証の「たたき台」を示し、BSE全頭検査には検出限界があることを認めた上で、検出限界の牛を検査から除外してもSRM除去措置が維持されれば「人が感染して、変異型クロイツフェルト・ヤコブ病が発生するリスクは増加しない」との考えを示した。調査会では、わが国におけるBSE感染牛発見以前に食用に回ったBSE感染牛を5〜33頭と推算し、この試算においてわが国総人口におけるvCJD患者の発生は0・135〜0・891人と1人に満たない水準と推定した。ただ、検査対象外とする月齢は、潜伏期間の牛の検出技術の限界から具体的には示せなかった。



夏季特集 「食料自給戦略の研究」<1>        (季刊特集
 
   「イノベーションと輸出産業課で発展を」<1>
       拓殖大学教授・元国民経済研究協会理事長 叶 芳和
 
      直接支払導入前にイノベーションを
      輸出産業化:中国市場をねらえ

     
つづく
 
   「食料自給率は向上できる」<1>
       慶応大学教授・元大蔵省財務官 榊原英資
 
      消費者をリアルタイムでつかめ!
      草の根から農業を変える
      農政を分権せよ
      関税撤廃し直接支払を

     
つづく
 
   「平成の農政大改革」<1>
      〜市場開拓が握る成否〜
       国際食料農業政策協議会(IPC)理事
       東京農業大学客員教授    白岩 宏
 
      農政改革の大合唱
      ルビコン河を渡ろう
      自給率論争の目的は何か
      国内農業の縮小と構造改革の停滞
      市場と需要を拡大成長させる農業・食料産業複合体の推進
      エタノール事業推進構想

     
つづく
 
   「食料自給率は向上できるか」<1>
       菜九州大学大学院教授・コーネル大学教授 鈴木宣弘
 
      食料自給と国家安全保障
      自給率向上を困難にする要因

     
つづく
 
   「『量』から『質』へ食料安保転換を」
       インサイダー編集長・ふるさと回帰センター帰農塾長 高野 孟
 
      「アジア−国−地方」へ政策・システム変革を
      帰農で自給率高めよ

     
読み切り
 
   「逃げるな! 堂々自給率論争を」<1>
       農業評論家 土門 剛
 
      非農家を参入させよ
      自給率目標放棄は敗北主義だ

     
つづく
 
   「何が食料自給率を低下させるのか」<1>
       経済産業研究所上席研究員・元農水省ガット室長 山下一仁
 
      食料自給率の低下
      なぜ食料自給率は低下するのか
      誰のための食料安全保障か

     
つづく
 
 
編集室
 
 2004年夏季特集号企画の統一テーマは、「食料自給戦略の研究」としました。
 世界の食料・農産物市場は、アメリカやブラジルなど新大陸型大農業国・大輸出国が独占的な輸出シェアを占める偏頗な貿易構造となっており、食料需給・価格は、これら特定国の気象・作柄変動等による影響を受けやすく、中長期的には需給が逼迫、価格が高騰する可能性を孕む不安定な需給・価格構造にあります。いや、中長期どころの話ではなく、世界の穀物生産は5年連続減産し、大豆の大消費国で、世界最大の輸入国に転じた中国が買付けに走ったため国際価格は高騰し、いつ、73年来の食料危機が起きるかもしれない需給・価格状勢にあります。こうした不安定な、危うい世界の食料需給・価格・貿易構造にあって、日本のカロリーベースの食料自給率は、2010年目標45%に対し40%に下がったまま、上昇に転じないばかりか、このままではさらに低下し、40%ラインを切る恐れさえ否定できない、世界最低の、危機的な食料安全保障レベルにあります。また耕作放棄地の増大等で貴重な農地は減少し、国民が最小限必要とするカロリーを確保するのに必要な農地面積総量450万bウえ割り込む恐れがあり、国土・環境安全保障の面でも危機的な状況にあります。さらにWTO農業交渉で農産物関税の大幅削減必至等、グローバル化の進展による食品輸入の増加で、国内農業はさらなる生産縮小、衰退の瀬戸際にあるといえます。
 このような日本農業の構造的危機が深化する中で、隣国の大農業・輸出国フランスに対抗して、食料安保の確保を目的に掲げた農業法を制定、農業構造改革に成功し、自給率をほぼ100%達成、輸出国となったドイツに学び、これに30年遅れた、歴史的桎梏である脆弱な農業構造を構造的に改変することにより、日本農業を再生、持続的な発展に反転させ、食料の安全保障と国土・環境の安全保障を確保する観点から、食料自給力を強化、食料自給率を向上するための戦略を構築し、強力に展開する必要があります。このため食・農・村基本計画の見直しは、まず自給率目標の達成状況と、向上しない要因の徹底分析・検証からスタートし、その構造的要因である農業構造改革の必要性について認識の共有を踏まえて、構造改革の加速化に向けた改革の検討課題に着手すべきです。そして徹底した要因分析を踏まえ、食料自給率目標は、国民の生活・経済活動に必要なカロリーに加え、病気予防、健康増進の観点から国内で優先的に供給すべき品目を選定し、その品目を重点的に生産し、自給率を向上するという戦略目標として再設定すべきです。戦略目標の達成には、市場動向、消費者・実需者ニーズに的確に対応した高付加価値・高品質・低価格の農産物を供給することにより、80兆円にも上る巨大な国内農産物・食品市場を輸入食品から奪回する国内市場競争力を強化するとともに、外需拡大により生産増大を図るための国際市場競争力を強化する農業構造改革・生産拡大戦略、資源循環・環境創造型農業振興戦略、農産物輸出戦略を構築する必要があります。これに加え、病気予防・健康増進に食生活を改善し、新鮮で滋養豊かな、安全・安心の国産農産物・食品をリーズナブルな価格で提供し、消費を拡大していく健康増進・食生活改善・国産農産物消費拡大戦略を構築する必要があります。これらを組み合わせたトータルな戦略として食料自給戦略は構築されなければなりません。
 こうした戦略的観点から、異分野を含む多士済々の専門家の方々に、既存の政策・制度的枠組みにとらわれない自由な発想、戦略的思考、広い視野、多様な視点からご提案を頂きました。刺激的な諸論考が食料自給率論議や構造改革論議を進化させ、食料自給戦略として構築、強力に展開され、強い日本農業が再生する一助となることを願うものであります。

週刊農林編集部