2006年6月5日号
 

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農林抄(論説)「水産白書への論評」
 
   「漁業経営は自由競争でよいか」
        21世紀の水産を考える会代表理事 河井智康
 

(河井智康氏は5月30日にご逝去されました。この原稿は、5月28日にご執筆いただいた原稿です。ご本人の意思を尊重し、本誌に掲載いたしました。心より、ご冥福をお祈りいたします 編集部一同)

 
 
<全文掲載> 平成17年度「水産の動向(水産白書)」が出された。今回の特徴は一般的動向のほかに、特集として「消費者ニーズにこたえる産地の挑戦」を組んでいることである。現在水産基本計画の見直しも進行しているようだが、この特集の方向が奨励されるとすればかなり基本的な問題があると考える。そのあたりを中心に論じたい。1980年当時、「さかな離れ」という言葉がいわれ社会問題にもなっていた。そのときの3大要因が「高い、嫌い、面倒くさい」であった。その後、水産物の栄養評価の見直しが進み、健康食的見方が定着して魚食志向が強まった。だがここ3〜4年少しテンポを速めて需要の減少傾向が進んでいる。水産白書でもその点は触れており、3大要因の復活も示してはいるが、あまり深刻には捉えていないようだ。需要が減ったことで自給率が高まるのは好ましいことではあるまい。従来は国民一人当たり`c(粗食量)全体で850万トンの需要といわれてきたが、今年の白書では全体で800万トンレベルに落ちている。その要因として、白書が魚価の「消費地高・産地安」にあるとしているのは同感だが、そこから導く対策がおかしい。白書は漁業者が「付加価値の向上に努力」、「産地による販売力の強化」により対応すべきと言うのである。何故消費地では買えないほど高いのに、産地では生活できないほど安いのかを追及し、その矛盾を解決するのが道理であろう。サバを例示して分析しているが、産地価が消費地価の42%にしかならないこと、17年には大量の安い小型サバを獲ってしまったことの原因を解明すべきである。白書はさらに特集の中で、「産地における取組事例」として、@漁協の大手スーパーへの営業活動A安全と品質向上の養殖B地産地消の観光化Cトロール漁業のレストラン経営D産直型のブランド作りEネットによる産直サービスF産学官連携の水産都市づくりの7例を挙げ、紹介だけでなくその方向を奨励している。だが、政策といえるのは7番目の水産都市づくりくらいであり、他は漁業者の涙ぐましい努力の事例である。現在の漁業衰退の中で漁業者の自己防衛的努力には頭が下がるが、もしもその方向を国が奨励し政策化するのであれば基本的な問題がある。それは、漁業全体を利潤追求型の私企業と同列に置き、自己責任と自由競争による「勝ち組」と「負け組」を作り出すことに他ならない。水産基本法は、水産業を食料産業として、日本になくてはならないものとして位置付けたはずである。そのために食料自給率の向上も国の責任で数値目標を掲げたのである。漁業の振興策はあくまでも国の責任として、漁業者誰もが健全な漁業を営める道を示すべきである。輸入自由化を不可避的前提にするのではなく、いま焦点の食料問題や地球環境問題を含め、根本的視点かつ世界的視野からの日本水産業建て直し策を望むものである。


焦  点 「ポジティブリストが施行」
 
 
 残留基準の設定されていない農薬が残留する食品の流通を禁止する「ポジティブリスト制度」が5月29日に施行された。施行間近になって農業者をはじめ、食品メーカー、流通業者、小売業者など混乱が見られ、施行までに開かれた説明会は、国主催が55回、都道府県が約800回に上り、法関連の説明会としては異例の数となった。石原農水事務次官は会見で「ポジティブリストは一時的には我が国の農家、あるいは農業にとって負担を強いるものだが、長期的には必ず日本農業のプラスになる。前向きに受け止め、輸入農産物に負けないような対応をしていただきたい」と、農薬の適正使用やドリフト防止対策の厳格な運用を求めた。



解  説 「2005年度 水産白書」 (水産
 
    「魚食拡大に向けた『産地の挑戦』示す」
       週刊農林編集部
 
 
 <要旨> 政府は05年度「水産の動向(水産白書)」を発表した。内容は、@トピックスA特集B水産の動向の構成は従来と変わりないが、内容はこれまでの白書よりしっかりしている。トピックスでは、@おいしい魚で健康ライフ(サブタイトル=食育で伝える魚食文化)A燃油価格高騰の影響(省エネ型漁業への転換の取組)B大型クラゲ大量出現(大型クラゲ被害に対する取組)Cわが海、わが港の自慢(未来に残したい漁業漁村歴史文化財産百選)Dマグロの乱獲許しません(地域漁業管理機関で進む資源管理強化)を簡潔に分かりやすく伝えるだけでなく、タイトルもインパクトがある「センセーショナル」なものになっている。また、トピックスのトップに後節の特集「消費者ニーズに応える産地の挑戦」につなげるため、水産物需要向上の話題をもってきた。特集では「消費者ニーズに応える産地の挑戦」と題し、水産物の消費動向・購買行動や、こうした変化がもたらす小売・流通の変化などあらゆる角度から分析し、「産地による販売力強化の必要性」を導いた。さらに、産地における優良事例を満載し、最後に販売力強化のキーポイントとして具体的手法を提示した。現状分析→課題提示→事例研究→解決手法と筋道構成がしっかりしており、分析も分かりやすい。特集最後の「産地販売力強化のキーポイント」も含め、産地の取組み「マニュアル」として十分活用できるものに仕上っている。ただ、気をつけなければならないのが、これら産地の挑戦はあくまでも漁業者の「自己防衛策」であり、今後の水産政策を示したものではない。産地改革を語る上では、我が国漁業の将来ビジョンを併せ示さなければ、産地の方策も定まらないだろう。
 
〜5POINT解説〜
 
      「魚食文化」拡大へ意気込み
      家庭内でも魚食量は増加?!
      スーパーと戦うな。入り込め
      小型魚蓄養で付加価値販売
      産地販売強化へマニュアル


     
読み切り
 
春季特集 「米政策改革2年の検証と米改革・水田農業振興戦略への提言」<5> (季刊特集
 
    「生産調整政策の問題点と消費者視点の米政策改革」<2>
       高崎経済大学地域政策学部教授 吉田俊幸
 
      生産調整下での価格形成の課題
      生産者団体による価格維持システム―希望価格制
      生産調整非参加者の存在と実効性確保の課題
      米にも直接支払いの導入を


     
最終回
 
解検証と提案「米改革・水田農業振興戦略の構築と展開」   (農業政策米・麦
 
    「区分集荷促進へ短期融資を最低支持価格に」
       〜セーフティネット3対策<2>〜
       週刊農林編集部
 
トピックス「農業・農村問題描く映画2本公開中!!」    (有機農業農業政策
 
 
 <見どころ> 
いま、農業・農村問題を描いた2本の映画が同時公開されている。一本は戦後農業の一つの到達点、4大公害に象徴される複合汚染が大きな問題になる中で70年代に起こった有機農業運動の原点と幾多の困難、危機に直面しながら、それを消費者との提携・協働により克服し発展してきた軌跡を映し出したドキュメント「いのち耕す人々」。32年の運動の到達点は、全国米食味鑑定士協会コンクールで4年連続日本一に輝いことに象徴される磨き上げられた高い有機栽培技術の達成と、38
人の若者で始まった有機農業が町内半数の農家が減農薬を含む環境保全型農業に取り組むまでに広がり、名実ともに「地域に根を張った」運動として定着したことだ。今後の課題は、第一世代によって起こされ発展してきたこの運動が、いかに第2世代に引き継がれ、さらに発展していくかだ。いま有機農業運動はそういう岐路にさしかかっている。この後継者問題というテーマは、もう一本のドラマ「恋するトマト」に通低する深刻かつ大きな農業・農村問題だが、こちらは「マルサの女」などでの個性的な演技で知られる俳優・大地康雄氏が自ら企画・脚本を手がけ、製作を総指揮、主役も演ずる構想13年、渾身の一作だ。映画は、農家に嫁がこないという現在の農村が抱える深刻な問題を背景に、専業農家の中年男性がフィリピンの農村で生き生きと働く若く美しいフィリピン女性と出会い、トマト作りを介して愛を育んでいくというアジアンネーチャーなラブロマンスだ。知名度の高い大地という役者が映像を通して農業・農村・
農家問題に取り組んでくれたことが一般の人々にも改めて農業の担い手・後継者問題に関心を持ってくれる機会となることが期待される。
 
 

農林水産ニュース&解説

 
 食品・安全
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畜   産
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農協・金融
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林   野
    平和紙業が国産材原料比率70%、原料トレサビを導入したエコロジー紙「間伐ホワイト」発売
 
水   産
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